友愛の先に

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「ああ、聞いた聞いた。あんなさわやかな見た目しておいて、嫌がらせのやり方が陰湿だよな。女子からさらに非難浴びさせようとして贈ったって話じゃんか」  などと、マドックが姿を現す先々で、尾ひれの付いた噂が、否が応でも耳に入ってくるのだ。違う、捨ててない、とできることなら言いたかった。けれどマドックは言わないことを選んだ。今の自分に貼られたラベルは「気弱でおとなしいマドック」だ。そのラベルをはがすような真似をすれば、また『普通』ではいられなくなる。  『変』だと言われた。近所の人に。学校の先生に。同級生に。  誰よりも手が出やすく、誰よりも口が悪く、それでいて誰よりも正しくあるマドックはおかしい、変だと後ろ指をさされた。別にそれだけならばどうでもいい。あろうことか、マドックの家に『猛犬注意』だの『二重人格者』だのという中傷めいた言葉が貼りつけられたり、落書きされたりするようになった。  厳しいけれど優しさに満ちた両親は、マドックにそのことを気にするなと言った。お前の良さが分からない狭量な人間の相手をする必要はないんだ、とも。
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