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それでもマドックは苦しかった。この優しい両親のもとで、どうして自分は『普通』でいられないのだろうかと悩んだ。
行いは正しいはずなのに、口を衝いて出る言葉は汚く、抑えようとしても腕や脚の筋肉は勝手に悪を仕留めようと動いてしまう。心の速度が体の反射に追いつくことができない。
普通でありたい。普通にいられたら、両親を傷つけることも、周りの誰を傷つけることもないのではないだろうか。そうして思い描く自分になれたら、きっと自分のことも好きになることができる気がする。
けれど、『普通』のラベルを望んで自らを押し殺した結果、今度は望まないラベルを貼られて、自分に嘘をつくことになった。
──何も知らないくせに、勝手なことばかり言いやがって!
少し前のマドックならば、そう怒鳴り散らしていたかもしれない。もしも手を出されていたのなら、すぐに仕返しをしていただろう。その方が楽だっただろうか。しかし、また理想は遠のいてしまう。
マドックは肺がぺしゃんこになるかと思うほど、大量のため息を吐いた。
そんな時だった。
「マドック」
顔が険しくなるのを抑えられないまま、声をかけられた方へ振り向く。
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