友愛の先に

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 苛立ちを生む小さな雑音が、マドックの耳に届き、我慢しようとうつむく。ストレスで爆発してしまいそうだった。どうせこんな声は聞こえていないだろうと、バーンハートの方を伺う。  顔はひそひそ話を続ける女子二人組に向いているが、その表情は初めて見るものだった。ただし、無表情を「表情」とカウントするのであればの話だ。話を続けている女子は見られていることに気付いていない。気付かなくてよかったかもしれない。  バーンハートの目は冷たい。氷よりも冷え切っている。驚きで目を離せなくなったマドックに、バーンハートはちらりとその澄んだサックスブルーの瞳だけを移す。目が合った瞬間、血の通っていない冷え切った手で、心を鷲掴みされたような感覚がした。 「じゃあまた後でな!」  氷の表情が嘘のような温かい笑みをマドックに向け、バーンハートは去っていった。  そうしてやってきた放課後。マドックはグラウンドでバーンハートを待っていた。約束をすっぽかしてバーンハートの機嫌を損ねないようにしたかったからだ。怖いというよりは、気味の悪さを覚えている。
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