余命宣告

2/10
前へ
/75ページ
次へ
5つある目覚まし時計が部屋中に鳴り響く。 針は全て9時15分を指していた。 ベッドの上には、そんな音が聞こえてないかのように爆睡している男がいた。 寝相が悪いのだろう。 男の上にあったはずの布団はベッド脇に落ちていた。  玄関のドアが開く。 鍵はかかっていなかった。 「どうして寝てられるの?」 女がそう言って、靴も脱がず部屋の中に入って行った。 そして5つ全ての時計を止めた。 「良助起きろー。」 女は男の頬を左右に引っ張って言った。  微動だにしない男を見て、女は近くにあった目覚まし時計を手に取ると、男の頭の上で手を放した。 鈍い音がした。 「う…ん。けいちゃん?」 男の目が開き、視界に女の仏頂面が入る。 「そんな顔してどうしたの?」 「何言ってんの!今日は私を…、京都を案内してくれるって言ったじゃん。」 男は少し考える。 「ああ。そうだったっけ?でも俺風邪かも。…頭がガンガンする。」 「気のせいだよ。」 女は男の隣で寝ている目覚まし時計を横目で見つつ言った。 男は鷹野良助(たかのりょうすけ) 女はその彼女の清水佳子(しみずけいこ)だった。  
/75ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加