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成海は廊下に座り込んで菫を待ってくれていた。数分後には授業が始まるので、廊下には二人以外に人の姿はなかった。
「大丈夫?」
菫の第一声は成海を心配する言葉だった。廊下に座る成海は能面のようだった。去年、伊勢谷先生に頼まれたことを思い出す。成海のことをよろしくって。あいつは見た目より脆いところがあるからって。
「うん。帰ろっか。」
帰ろっかというのは、成海の家にだよね?成海は辺りを見渡して、棚橋先生がやって来ないかを入念に確認している。
「俺らが体調不良で帰ったことは、クラスのやつが担任の純ちゃんに言ってくれるだろうし、タナハッシーが来る前に消えちゃおっか。」
成海が立ち上がって手を差し出したので、菫は素直にその手を握りしめた。
「帰ろう。成海の家に。」
一瞬、成海は目を丸くして菫を見たが、ふっと微笑して、菫の手を引いて歩き始めた。
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