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「悩まない人生なんてないし、悩むことが大人になるための道だよ。今、悩んで考えて、例え答えが見つけられないままだとしても、その時間は君達にとっては必要なことだと思う。」
「無駄じゃない?」
「無駄じゃないよ。むしろ、大人になるための近道かもね。」
「伊勢谷ちゃん!」
成海はニヤッと笑って見せた。
「やっぱり伊勢谷ちゃんは先生だったんだね。」
「やっぱりってなんだよ。」
せっかくカッコつけたのになと言いたげに剥れる伊勢谷の姿がフロントガラスに写って、菫はようやく声を出して笑うことができた。
「……先生、ありがとう。」
「……どういたしまして。顧問が言う通り2週間はしっかり休みな。宮田はちゃんと傍についててやれよ。」
「言われなくてもそうするよ。」
菫の手の甲に成海の掌が重なり、お互いにどちらともなく指を絡めた。
「伊勢谷ちゃん、また今年もバーベキューする?」
「えー!?」
あの収拾のつかない会をまたするのかよと言いたげに伊勢谷から渋った声が出る。
「私もしたい!バーベキュー!七海ちゃんや涼さんにも会いたい!」
菫が話に食いついたので、成海は伊勢谷の肩をわざとらしくポンポンと叩いた。
「顧問の話では、すーちゃんは2週間は好きなことをした方がいいんだって。」
「……分かったよ。」
ふふっと菫は思わず笑ってしまった。伊勢谷先生は口では嫌そうな素振りをするけど、それが本心ではないのは去年からの付き合いで感じ取れる。
今日、先生と成海が来てくれて良かった。
理紗から返信のメッセージが来ていて、自分が転んで救護所に運ばれた後に、顧問の元に成海が色々と聞きに行っていたそうだ。ケガの具合から、この後のこと、それから今後のことも。
駅で二人が待っていてくれたのは、成海のお陰なのだ。
菫は成海と絡めた指に力を込めてさっきより強く握っていた。
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