桜 真夏の夜の花火大会

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「うーん……。」 小さな寝言のような寝息のような声を上げて、真尋が寝返りをうったので、桜はふーっと息を小さく吐いた。神経質そうに見せて、結構どこでも寝れる人なのだ。羨ましいぐらいに。 もう1年の歳月が過ぎようとしている。真尋が友達から責められて泣きじゃくる自分を抱きしめてくれた時も、彼は理科室で眠っていたっけ。それから一緒に文化祭ではしゃぐみんなを会議室から眺めて、菫ちゃんにライブに誘ってもらって、初めて真尋が歌う姿を見た。ちょっとやそっとでは靡かない立ち姿だった。 「あっという間だね。」 後1年と少しはこの人と一緒にいられる。学校を休んだり遅刻したりしているけど、父親を安心させるためにも、本人はきちんと卒業するとは言っていた。 でも、その後は……? 桜が塾で見ている限り亜貴は大学に進学するようだった。亜貴の成績でも受かるか際どい偏差値の高いところで、「すごいね。」と桜が呟いたら亜貴は「それが両親の望みだから」と言っていた。 しかも、亜貴の受けようとしている大学はこの近くではない。亜貴は口にはしないけど、大学に通いながらバンド活動を続けるのだろう。そして、それを真尋や礼央、翔太も認めていて、彼らは卒業と同時にきっと亜貴と一緒にこの街を出て行ってしてしまう。 自分は?どうするのだろう?家を出るなんて言ったら、父親が顔を真っ青にするに決まっている。それに、まだぼんやりとしかやりたいことも決まっていないのだ。それがどこで出来るのかを知ることの方が先だろう。 だって、真尋は絶対に反対する。他人のために自分の将来を決めるなんて、ナンセンスだって言って。
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