桜 真夏の夜の花火大会

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丸1時間、真尋の仮眠に桜は付き合った。起きた時にはさすがにちょっと足が痺れていて、真尋に深々と謝られたけど、その姿がなんだか可愛くて、我慢できずに笑ってしまっていた。 昼休みには案の定、棚橋に真尋と一緒に桜は呼び出されて、「俺の授業ばかりサボるな!課題出すから3日で提出!」と一喝されてから、3日で終わるのかというぐらいの課題を渡させれた。 昼休みを半分残して桜が真尋と教室に戻ったら、舞香が「お疲れ様。」と言って手を振ってくれた。舞香の近くの席には猛と丈がいて、同じように手を振っていた。 「桜ちゃんあのね……」 桜が自分の席から弁当箱を持って、舞香の隣の席に腰を下ろしたら、待っていましたと言わんばかりに舞香が口を開いた。 「花火行かないって……。」 舞香の言う花火が、終業式の3日後に市内であるものだと桜はすぐに理解した。特産物など特にないこの市が唯一誇れるもので、毎年、5000発近く打ち上がり、その日は出店が出たり、少し離れた市から足を運ぶ人もいたりした。 「一緒に行こうよ、俺と猛と青山さんで。」 丈がヘラヘラという言葉がふさわしい笑顔で桜に笑いかけていた。 「えっと……」 舞香に気付かれないように、桜は彼女の様子を伺い、きっと行きたいだろうなと感じていた。 自分がいかないって言ったら、舞香ちゃんも断るだろう。でも、せっかく松田くんと花火が見られるのに。もちろん松田くんがこの花火に来るっていうのも意外なのだが、佐伯くんと仲はいいし、彼に頼み込まれたのかもしれない。 「舞香ちゃんが行くなら行く。」 桜の返事に舞香は瞬きを数回繰り返した。 「だって、青山。どうする?」 猛に聞かれて舞香は「行く。」と小さな声で返事をした。相変わらず猛と話す時は緊張するのだと言っていたっけと、桜は微笑して舞香を見つめた。 「じゃあ決まりー!楽しみだなあ、桜ちゃんと青山さんと花火。」 丈がクラス全体に聞こえるぐらいの声を上げ、 「安藤も来る?」 軽音部のメンバーと教室の前でお昼を食べる真尋に、前触れもなく話を振った。
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