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それから桜は真尋と伊勢谷としばらく近況を話して、伊勢谷とは別れた。伊勢谷は夏休み中に桜のバイト先にも顔を出すと言ってくれた。
「行こうか。みんながファミレスで待ってるって。お腹が空いたからとりあえずご飯って言って。」
「うん。」
桜は真尋と肩を並べて、人の波に乗ってファミレスへと向かった。時々、先程のライブにいたと思われる観客からの視線を感じながら。
「なんだかちょっと有名人だね。」
桜が呟くと、真尋はそうかなぁと言いたげに頭をかいた。
「街で声をかけられたことはないし、俺的には今も昔も変わらないんだけどなぁ。」
それは真尋がその辺のことに疎いからだよと言いたくなるのを桜は堪えた。もし言ってしまって、真尋の存在が自分から離れてしまうのが、どうしようもなく嫌だったから。
「ねぇ、真尋……」
ほんの少し自分の指先を彼の中指に触れさせた。
「何?」
それに気付いたのか否か知る術はないけど、真尋の指が自分の指と絡まって、手が繋がって、桜は自らぎゅっと繋いだ手に力を込めた。
「お腹減ったね。」
「本当に。俺、今日は絶対に肉にしよう。」
morning glowには活躍して欲しいけど、二人で手を繋いで笑い合える時間は続いて欲しい。
矛盾を抱えながら、桜は細長い三日月の浮かぶ空を仰ぎ見た。
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