桜 真夏の夜の花火大会

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桜が待ち合わせ場所の駅に、下駄の音を鳴らしながら向かうと、そこには丈と猛がすでに待ってくれていた。 二人は浴衣は着ていなくて、ついさっきまで部活をしていて、シャワーだけ浴びて来たからと言っていた。 「桜ちゃん、めっちゃ可愛い!」 丈が今にも飛びつきそうな勢いで自分の元に歩み寄ってくるものだから、桜は思わず一歩後ずさりして、曖昧に笑みをこぼした。 褒められて悪い気はしないけど、佐伯くんのペースに乗せられてはダメなのだ。 桜が着ていたのは白地に赤い牡丹が描かれた浴衣だった。母親に付属の紺色の帯で締めてもらい、飾りにシルバーのラメ入りのへこ帯を結んでもらった。髪の毛は自分で編み込みをアップにして、浴衣と同じ牡丹の花が付いた簪を指した。 「よく似合ってるよ。」 そう猛は桜に笑いかけてくれたが、その後で丈に聞こえないようにそっと耳打ちした。 「本当は真尋と行きたかったんじゃないの?」 「……。」 桜を見つめる猛は決して揶揄っているわけでもなく、今日は嫌々来たんじゃないのと疑っているわけでもなさそうだった。ただ、友達として桜の気持ちを心配しているようだった。 「いいの。安藤くんは花火大会とか興味ないでしょ。それに、私ね、今年に入ってから舞香ちゃんともっと仲良くなれてすごく嬉しいの。だから、こうやってみんなで思い出を作れるのもいいなって。」 その気持ちに嘘はない。こんなに話の合う女友達は本当に初めてなのだ。
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