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「そろそろ行かなきゃ。探されてる。」
と、真尋が口にしたのは、スマホに軽音部部長のメッセージが来たからだった。
「今日、1回目のミーティングなんだ。それぐらいは出とけって。」
「うん。私もそろそろバイトに行かないとだから大丈夫。」
本当はもう少し一緒にいたいけど、そんな自分勝手なワガママは言いたくない。安藤くんに迷惑はかけたくない。
桜は真尋と自分たちの教室のある2階まで降りてきて、分かれ道でどちらともなく歩みを止めた。真尋はこのまま渡り廊下を突っ切って、特別教室のある別棟に向かう。桜は階段を降りて帰るだけだった。
「そういえば……」
真尋が思い出したように学生鞄を開けた瞬間だった。
「桜ちゃん!」
廊下に響き渡る声に、桜は動揺しながらも
「佐伯くん……」
と、一応返事をした。丈はサッカー部のユニフォームを着ていた。昼間に猛が今日は近隣の学校と練習試合をすると言っていた。
「今から帰るの?えっ?てか、何で安藤と二人っきり?」
思ったことを躊躇いもなく口にする丈に、桜は二人の関係を言い表わす言葉が見つからず、口をつぐむだけだった。
「桜、これ。」
戸惑う桜とは正反対で、真尋は丈に目も触れず桜に一枚のアルバムを差し出した。
「さっき聞いてたやつ。貸すの忘れてたから。」
「えっ!?いいの?」
確かつい数日前に発売されたばかりのはずだ。
「うん。俺、もうスマホに曲を入れたから。」
「じゃあ借りる。ありがとう。」
桜が戸惑いを消して笑うと、真尋は安心した顔を見せた。
「じゃあまた明日。」
「う、うん。部活、頑張ってね。」
そこまで話して、真尋は一瞬だけ丈を見たが、何も言わずに立ち去った。
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