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桜は慣れた手つきでコーヒーを客のテーブル席に置いた。
バイトは1年生の頃と変わらずマスターは親切で、常連客の顔もだいぶ覚えられ、どうしたら良いか分からず、オロオロすることもなくなっていた。
「伊勢谷さんが転勤してしまうなんて残念だよ。」
と、最後に伊勢谷が訪れた時にマスターは口にしていた。ここに通うにはさすがに距離が離れすぎていた。
桜もどことなく心に穴が空いたような感覚に陥り、4月当初はドアにかかったベルが鳴るたびに、あり得ないのに先生が来たのではと振り返っていたが、今はいなくなった現実に体も心も馴染み始めていた。
だから今日もベルが鳴っても、桜は相手の顔を凝視することはなかった。
「空いている席へどうぞ。」
そうお客さんに言って、初めて相手の顔を見て、桜は「ええっ!」と大声をあげてしまった。
「宮田くん!?」
何でここに?いや、学校からは近いし彼ならふらっと訪れるとかありそうだけど……。
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