桜 お守りに欲しいの

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❇︎❇︎❇︎❇︎ 桜は慣れた手つきでコーヒーを客のテーブル席に置いた。 バイトは1年生の頃と変わらずマスターは親切で、常連客の顔もだいぶ覚えられ、どうしたら良いか分からず、オロオロすることもなくなっていた。 「伊勢谷さんが転勤してしまうなんて残念だよ。」 と、最後に伊勢谷が訪れた時にマスターは口にしていた。ここに通うにはさすがに距離が離れすぎていた。 桜もどことなく心に穴が空いたような感覚に陥り、4月当初はドアにかかったベルが鳴るたびに、あり得ないのに先生が来たのではと振り返っていたが、今はいなくなった現実に体も心も馴染み始めていた。 だから今日もベルが鳴っても、桜は相手の顔を凝視することはなかった。 「空いている席へどうぞ。」 そうお客さんに言って、初めて相手の顔を見て、桜は「ええっ!」と大声をあげてしまった。 「宮田くん!?」 何でここに?いや、学校からは近いし彼ならふらっと訪れるとかありそうだけど……。
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