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「朝は大変だったねぇ。」
お昼休みに気分転換も兼ねて桜は舞香と中庭でお弁当を広げた。去年、ここでくろのことをかまっていたことが、遠い日のことに感じて懐かしい。
舞香は桜の誕生日にと直径12センチ程のホールのチョコレートケーキを焼いてきてくれた。そしてプレゼントに桜の花びらのイヤリングも。
「佐伯くんに何をもらったの?」
桜は渡されいた細い紙袋の中身を取り出した。
「わぁ!キレイ!」
先に声をあげたのは舞香で、中にはラメの瓶の中に星型の色とりどりの小粒のチョコレートが入っている。瓶は後でも使えるようになっている仕様だ。
きちんとお礼はした方がいいよね。桜は瓶を眺めてそっと息を吐いた。形のある物だと今の関係だと重た過ぎて気を使わせる。でも、ほんの少しは手に残る物を渡したい。そんな丈の思いを感じてしまうからこそ、誠意ある対応をすべきだ。
「それで安藤くんには?何か言われた?」
「おめでとうって。それから放課後、一緒に帰ろうって……」
さすがに舞香にはまだ真尋の家に泊まりに行くことは桜は言えなかった。荷物も気付かれないように必要最低限を紙袋に詰めてきた。
桜が真尋におめでとうを言われたのは、あの騒ぎの後だった。猛が桜から丈を引き離したところで、真尋が登校した。
彼は何も知らない。でも自分は知ってしまった。女の子を泣かせてきたらしい過去を。そして醜い自分がいる。安藤くんが自分以外の女の子と付き合っていたこととか、自分にするのと同じように、彼女を泣き止ませていたのではないかとか、あの声も腕も体温も他の人のものになっていたと思うと……
自分はこんなに欲深かったのかと。人のことを言えるような立場でもないのに。散々今まで男の子と付き合ってきたけど、こんなにも相手の恋愛事情を知りたくないと思うのは初めてだ。
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