桜 お守りに欲しいの

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❇︎❇︎❇︎❇︎ 鍋が出来上がる頃には亜貴も翔太も真尋の家に到着して、4人に桜はもう一度「お誕生日おめでとう。」と言われた。そうやってお祝いされることに、桜は感謝の気持ちが溢れて泣きたくなって、それを振り切るために、首を左右に振って軽く手の甲で目をこすった。 「さ、お鍋を食べよう。鶏出汁、絶対に美味しいから!」 具材も出汁が染み込むような切り方を、桜が真尋や礼央に教えながら準備をした。二人とも手際が良くて、桜が一言えば十はできるような感じだった。 「桜の作ってくれるご飯、美味しいから大好き。ほら、桜も食べな。あ、熱いかな?俺がふーふーしてあげようか?」 翔太が言った矢先、ごんっと真尋が翔太の後頭部を小突いた。 「何?真尋も俺にふーふーされたかった?」 「ちげぇよ!」 「じゃあ何?」 「何でもない。」 完全に不貞腐れている真尋に桜はおろおろしながら、隣に座る亜貴を見やった。こういう時いつも亜貴は冷静に周りのことを観察している。 「大丈夫。翔太は真尋のことを揶揄いたいだけだから。真尋もそれは分かってるよ。それに……」 亜貴はそこで少し声のボリュームを下げて囁いた。 「翔太にはね、ずっと片思いしている人がいるの。7歳年上の隣の家に住むお姉さん。翔太はいつも子ども扱いされてるけど。」 「そうなんだ……」 「翔太の両親があまり家に帰らなくなった時に、隣の家がよく翔太と翔太の妹を晩ご飯に呼んでくれてたみたい。その時にお姉さんとは親しくなって、未だに弟扱い。不憫でしょ?」 亜貴は苦笑した後、「だから安心して。」と呟いて、真尋と翔太に視線を投げた。亜貴の視線の先には、鍋を仲良くつつく真尋と翔太と礼央の姿がある。真尋も翔太も先程の険悪な雰囲気は全く感じさせずに談笑していた。 「俺らは一番弱く無力だったときに、ずっと一緒だったから。簡単に仲が壊れたりしないよ。」
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