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菫の服はすぐに見立ててくれたのに、桜は自分の服に関しては、手にしては元あった場所に戻すことばかり続けている。
「これとか桜に似合うんじゃない?」
菫が白と黒のギンガムチェックのワンピースを桜の胸元に合わせても、桜は首を傾げるだけだ。
「どうしたの?桜がこんなに悩むなんて。」
「……別に。よくよく考えたら、可愛い服を着て出かける予定もないしなぁって思っただけ。」
桜の横顔はどこか寂しげで笑っているのに、悲しそうな瞳の色をしている。だから、菫は思わず口走ってしまった。以前のように桜を助けたい思いがこみ上げてきていた。
「デートしたらいいじゃない。安藤くんと。」
「そっ……そんなの無理!安藤くんは忙しいんだよ。てか、安藤くんのことはいいから!」
必死になって安藤くんの話題を拒む桜は、どこからどう見ても安藤くんを意識しているとしか菫には思えなかった。
それに安藤くんも……。桜が風邪を引いた日、安藤くんは嫌な顔ひとつしないでお見舞いに来てくれた。彼はずっと桜のことを気にかけてくれている。
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