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「あのさ……」
「成海のこと?」
菫が話し始める前に、先回りするように猛に言われて、菫は静かに頷いた。
「残念だけど、俺に答えられることは何もないよ。」
猛はふっと息を吐いて、鋭い視線を菫に投げかけてきた。いつもの人懐こい表情はそこにはなかった。
「俺ね、噂話とか嫌いなんだよねー。聞きたいことがあるなら成海本人に聞いたら?もし、神谷さんが成海に聞く勇気がないなら、今はそういうタイミングじゃないってことじゃない?」
そこまで言い切ると、猛はにこりと笑って、菫が抱えたままになっていたサッカーボールを受け取った。
「ボールありがとう。丈のやつ、どこに蹴ってるんだよって感じだよ。」
悪態をつきながら、猛は菫にひらひらと手を振って、サッカー部の輪の中へと戻って行く。その後姿に「待って。」とは、さすがに菫は言えなかった。
彼は去年からそうだった。いつも成海を守ろうとしている人だ。成海が傷付くことを好ましく思っていない。
「今は聞くタイミングじゃないか……。」
松田くんの言う通りかもしれない。聞いてどうする?聞いて、私は満足なんだろうか。それすらも分からない。
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