満月の夜の

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「旅館の外に呼び出しなんて、中じゃだめなの? やっぱ寒い」 「……ごめん話したいことがあって」  鼓動が速くなる。 「中じゃダメなの?」 「誰にも聞かれたくないんだ」  鼓動の音が僕の頭に爆音で響いていた。 「んーそうなんだ……」 (――うるさい)  鼓動の音を鎮めようとする。  しかしそれはゆっくりになりどころか、速さを増していく。 「なんか……大丈夫? 顔色悪いけど、もしかして待たせちゃった?」 「いや大丈夫。大丈夫だから……」 「大丈夫には見えないよ。呼吸も荒いし」  今だ、言おう、言わなきゃいけない。  そんな言葉が、僕の頭の中を駆け巡る。  だが言おう言おうと思うほど、苦しくなっていき、 「とりあえず深呼吸しようか。ほら今日は満月だよ。上を向いて、あの満月を見ながら、深呼吸しよう」 「……満月?」  僕は空を見上げる。  そこに確かに満月の姿があった。  この寒空の中で唯一地上を明るく照らしていた。 「すうぅ……はぁ……」  呼吸を整える。 (うん、いける)  彼女の言った通りにすると、落ち着くことが出来た。 (よし!)  覚悟を決めた。 「――好きです。付き合ってください」
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