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陽菜子「り、理子?」
目の前に、同僚の松田理子(まつだ りこ)が不可解な顔をして陽菜子を見つめていた。
理子「おはよう・・・・どうしたの?」
陽菜子「へ?何が?」
理子「何でこっち来たの?会社、そっち側の歩道でしょ?」
陽菜子「いや・・・・そうなんだけど・・・」
陽菜子の右耳から不快な高音が響く。
陽菜子が思わず振返った瞬間、反対の歩道から大きな衝撃音が鳴り響いた。
理子「うわ、ヤバ・・・・」
陽菜子「え・・・・・」
陽菜子が渡ってきた横断歩道の先、乗用車が信号機と衝突して大破していた。
周辺からは悲鳴が響き渡り、大勢の人間が事故現場に駆け寄っていく。
理子「大丈夫かなあ、中の人。」
陽菜子「あの場所、もしあのまま待ってたら・・・」
理子「そうだよね、陽菜子、事故に巻き込まれてたかも・・・」
まただ・・・・柵の場所・・・
理子「でも、陽菜子何でわかったの?」
陽菜子「へ?何を?」
理子「わざわざこっちに来たんだから、予知能力でもあるの?」
陽菜子「いや、あそこに柵が・・・」
理子「柵?」
陽菜子「そう、横断歩道の前・・・」
陽菜子が指差した先を、理子は懸命に見渡した。
理子「どこに柵があるの?」
乗用車が衝突した信号機には、人だかりが避けるように空間が出来ていたが、今まであった柵は影も形も無くなっていた。
まただ・・・柵がない・・・・
理子はそのまま視線を落とし、腕時計を覗いた。
理子「やばい、陽菜子、遅刻する!」
理子は、呆然と立ち尽くす陽菜子の服を引っ張り、二人は駆け足で会社へと向かった。
陽菜子の会社は、ガラス張りの大型ビルに入居している。
二人は一階の受付を通り過ぎ、エレベーターの前に立ち止まった。
理子「あ、ゴメン、」
陽菜子「ん?何が?」
理子「ちょっと、トイレ、」
陽菜子「え?上じゃ駄目なの?」
理子「ゴメン、我慢出来ない・・・・」
理子はエレベーターの列を離れ、横にある狭い通路に向かった。
陽菜子「理子!待って!」
理子は陽菜子の声に反応し、思わず立ち止まった。
・・・・ある、柵が・・・
しかし、陽菜子が今まで見たものとは明らかに違う。
何か、小さい・・・・
トイレに繋がる通路の真ん中に、今度はレンガブロックほどのサイズの柵が設置されていた。
理子「何?どうしたの?」
陽菜子「そっち、行かないほうがいいかも・・・」
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