少年「小説は事実よりも眠し」

とある春の、とある学校にて――

『木造校舎の教室。窓から注ぐ春の日だまりの中で、彼女は寝ていた。いつもの姿からは想像できない、無防備な寝顔がとても可愛らしい。
　少年はそっと近づき、彼女が突っ伏している机、その前の席に静かに座った』

　思わず目を丸くする。まるで今の状況とそっくりだ。あの夏と同じ、不思議な一致の再来だった。

『少年はしばらく、彼女の寝顔を眺めた後、そっと彼女の頭に手を伸ばす。起こさないように優しく髪に触れ、撫でてみる』

「……ふむ」

　小説と同じように、彼女の髪を撫でてみる。艶やかな黒髪の感触が心地いい。彼女は依然、起きる気配はない。

『髪を撫でていた手が、少女の頬へと移る。柔らかなその感触に、少年の動悸が若干早くなる』

「……よし」

　またまた小説と同じように、彼女の頬に触れてみる。ぷにぷにとした感触がとても心地いい。

　寝ている間に、勝手に触れることに罪悪感を覚えないわけではない。普段ならこんなことは絶対しない。

　しかしこれは不思議な一致なのだ。不思議な一致なのだから仕方ない。うん、仕方ない。

　それに、俺たちは付き合ってるのだから、こんなことしたってたまにはいいだろう。むしろしない方がおかしいのだ。