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『彼の手が、少女の唇に触れる。少年の動悸が、よりいっそう早くなる』
「……」
なにも思わなかったわけではない。
実はあの夏から今まで、キスをしたことすらない。するようになったことと言えば、時々手を繋ぐようになっただけなのだ。
しかし不思議な一致は絶対だ。なので、不思議な一致を完遂するため、俺は小説通り彼女の唇に触れてみた。
そのプルプルとした未知の感触に、俺の中に衝撃が走る。触れている指に、彼女の吐息が一定のリズムを刻んで当たる。
心臓の鼓動が早くなる。むくむくと、男として当然の邪な欲求が沸き上がる。しかしその欲求にしたがってしまうと、間違いなく彼女に嫌われる。
落ち着いて、続きを読もう。
『少年はついに我慢できなくなり、眠っている少女に口づけをした』
「おいちょっとまて」
何してるんだこの登場人物は。
『それでも、少女が起きる気配はない。彼はついに決心した。一旦教室の外を確認したあと、ドアに鍵をかけた。そして━━』
バタンと文庫本を閉じる。以降の内容は、それは過激なものだった。
なんていうものを読んでるんだこいつは。というか、こんな過激な本で結ばれたのか、俺たちは。
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