とある春の、とある学校にて――

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 いくらなんでも、こんな内容を実行するわけにはいかない。実行して彼女が嫌がったなら、彼女にふられるどころか、犯罪者の仲間入りだ。  だが、心臓の鼓動は依然早いままだし、邪な欲求に至っては先程よりも大きく膨れ上がっている。  全く、読まなければよかった。俺は自分でいうのもなんだが奥手なのだ。ヘタレではなく、奥手なのだ。物事には順序があり、恋愛にも当然順序がある。  こんな小説みたく、ジェットコースターのように一気に事を進めてしまうのはダメだ。破廉恥だ。  ……。  いやしかし、恋人ならキスくらいしてもいいのでは? 「いやいやダメだ。ダメに決まってる」  そもそも初めてのキスを、相手が寝ている間に済まそうなんて論外だ。犯罪だ。というか、普段勇気がでないから寝てる間にしようというのはヘタレだ。  ……しかし、それなら俺はいつになったら、彼女と唇を重ねられるんだ?  そもそも夏に付き合い始めたのに、今の今までキスすらしてないとはどういうことだ。それこそヘタレだ。「キスしたい」と言い出す勇気すらない臆病者だ。  訂正しよう、認めたくないが俺はヘタレだ。  今の彼女は非常に無防備だ。ぐっすり眠っているから、キスをしたって、小説みたく起きないんじゃなかろうか。  彼女の唇はとても魅力的だ。指ですら衝撃が走った。なら、唇で感じる感触はどれほどのものだろう。
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