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むかしむかしあるところに、信心深い男がいました。男は竹細工の職人で、妻を娶って小さな家で暮らしていましたが、何年経っても子どもができることはありませんでした。
妻は少女時代、何人もの身分の高い男性に求婚されるほどの美貌の持ち主でした。しかし上流階級で暮らす息苦しさを嫌って、職人の彼のもとへ周囲の反対を押し切って嫁いだのです。そのころは彼が作る竹細工のチョウやトンボが、宝石よりも絹よりも尊いものに見えました。
月日は流れ、自慢の美貌が衰え始めたころから妻の心には不満しか浮かばなくなりました。夫は腕のいい職人だから、いずれ大成功するはずと期待していました。ところが夫は欲のない人で、彼を高給で雇いたいと言う人が現れても、それまで通り小さな家で細々と暮らすほうを選んだのです。妻はがっかりしました。
「子どもも使用人もなく、こんなボロ屋で一生を終えるなんて……」
思い出したように呟いては涙を浮かべる妻を、夫は慰めもしなければ怒りもしません。ただいつものように、竹を取りに行ってはカゴを編み、ちょっとした小物を作ります。それらは出来がいい上に安かったため、彼を知る人はみんな彼を尊敬し愛していました。
ある日のことです。しばしば隣街まで出かけることの多かった夫は、道端で雨に打たれている地蔵を見つけて不憫に思い、自分の笠をあげて帰ってきました。
数日後、いつものように竹を取りに行った夫がなぜか赤ん坊を抱えて帰ってきたのを見て、妻は仰天しました。
「長年私に苦労をかけておいて、自分はよそに子どもを作るだなんて。私の一生を返してください」
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