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 六月の第一木曜日の夕方、僕が家に帰ってくると、母親から「これきてたわよ」と一通の封書が渡された。  「親展」「重要書類在中」「大切なお知らせです」とこれでもかと自己主張してくるその封書の差出人は市役所だった。  渡されたその場で封を破いて中を確認するとA4の紙が一枚、入っていた。その文面の上部に目を通してみれば、一番上に「市が推進する新制度モニターのご案内」と他の文字より大きい印字があり、その横に書類が作成されたであろう日付と「Y市未来選択課」という聞き覚えの無い部署名が並んでいる。  下って本文を見れば定型の挨拶から始まり、次に「新成人になられた市民の皆様の中から無作為に選んだ方々に、市が推進する新制度のモニターをお願いしております。」と題を引き伸ばしたような一文。続いて、「市民の皆様の心身の健康、安心安全を守る為の新制度へのご協力を是非お願い致します。」と別に入れなくてもいいような文句が入り、その下に身分が確認できるもの必携で来いという日時と場所が太字で打たれていた。  場所、市役所地下二階。日付、来週の火曜日午後一時半。  最後に「お時間のご都合がつかない場合は必ず以下の電話番号へ早めのご連絡をお願い致します。」と赤インクでの印字。  説明が足らなすぎて、何も理解できない。これは、このままスルーしてもいい類のものなのだろうか。 「義務」とは書かれていない。しかし「お時間のご都合がつかない場合」は「必ず」「連絡」。
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