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あれから時々見かける先輩。
いつも遠くて声がかけられない。
1年生が3年生に近づいて声をかけるなんてハードルが高すぎる。
早くお礼がしたいのにな…
近づけないのはそれだけじゃない。
先輩を見る度、不自然に鼓動が音をたてるから。
「はいっ!捕まえた」
!?!?
歩みを止めるように肩に回された腕に呼吸が止まる。
「驚きすぎ。ちょっと付き合ってもらおうかな」
楽しそうに笑う先輩に連行される…
「………」
ちょっと待っててと、連れて来られたモールのコーヒースタンド。
二人掛けの小さなテーブルに座らされ、レジに続く列に並んだ大きな背中を落ち着かないままに見る。
プラカップを両手に持って戻ってきた先輩は、どうぞ。と1つを私の前に置いてくれた。
「ありがとうございます…」
いーえ。と頬づえをついた先輩は首を傾げて微笑んでいる。
プラカップを見てる事しか出来ない私に長い指が伸びてくるのが視線の端に映りこんで、頬に落ちている髪の毛をすくわれ、耳にかけられ、頬と耳に指先が…
「顔…見えない」
低くて柔らかい声が同級生と違い過ぎて私を落ち着かなくさせる。
今、お礼言わなきゃ。今度いつ話せるかわかんないし…
何かが引っかかっているみたいな喉を無理矢理開く。
「あの…」
声が変にひっくり返って恥ずかしさに真っ赤になった顔を隠す。
「フッ、丸岡さん緊張しすぎ」
更に熱くなる顔を隠したまま
「この前、ありがとうございました」
「この前って?」
「あの…コンピュータールーム…」
あぁ…律儀だね。とブラックコーヒーに口をつけながら笑われた。
飲むものも大人なんだな…。
「飲まないの?」
カップを指さされ、カフェオレの上にソフトクリームみたいに乗っている生クリームを少し掬って口に運んでみた。
「おいし」
良かったね。と微笑まれて味がわからなくなった。
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