みなかみ町の悪夢

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 お互い笑顔で手を振り守は店を後にした。知らない人に対してこんなに親切にしてくれるなんて群馬の人達はとても優しいなと守は実感したのだった。実は故郷である秋田に帰ったら自分が住めるマンションを探し群馬の町で一人暮らしをしようと考えていた。彼はこの群馬県をとても気に入っていた。第二の故郷とも思っていた。  守が群馬に親しみを抱くきっかけとなったのは遠い昔の事だった。幼かった頃の彼は今は亡き祖母と共に群馬を訪れ各所を巡った。名物を堪能し祭りや伝統を見て回った。その思い出が守にとっては一生の思い出となっている。  また群馬に行きたいという思いはいつまでも消えなかった。だが、両親は強く反対し許さなかった。思いが届かないまま数年の月日が流れた。だから高校を卒業し大人になった守は居ても立ってもいられなくなり家を飛び出し1人でここを訪れた。そして今に至るのである。  ・・・・・・だが、平和な光景が広がるこのみなかみ町で奇妙な事件が多発していた。市内を中心に若い男女が相次いで失踪しているのだ。行方不明者は突然、姿形もなく消えてしまうので警察も手掛かりすら掴めない状態だった。最初は拉致事件と騒がれていたが神隠しや人間を攫う魔物がいるなどの非現実な噂も流れ始めた。ネットではこの町自体が心霊スポットと化しているとかと書き込む者も現れるくらい有名になっていた。  実は守もこのニュースを前から耳にしていた。だが、その割にはこの街の人々は誰も事件の内容を話す事はなく普通に生活していた。それ故に本人も大して気にも留めなかったのだ。
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