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民家が並ぶ住宅街の道の真ん中で2人の男女が歩いていた。見るからに仲が良さそうで最近になって付き合い始めた彼氏と彼女にも見える。2人は隣同士、色々な話をしていた。
「谷川岳に行くつもりだったんですか?」
「そうなんですよ。だからこんな季節でも厚着の格好をして商店街で飲み物を買っていたわけです。」
「そういえばさっきの漫画、私も持ってますよ。面白いですよね。」
「はい!『おはよう!水上姫』、最高です!」
「どこらへんが一番面白いですか?」
守は漫画の様々な場面を頭に思い浮かべ
「・・・・・・やっぱりあれですかね。水上姫が龍の水晶をわざと落とすところ!」
「あははははは!あそこ凄く面白いですよね!」
2人はまた声を揃えて笑った。愉快な声が民家だけの一帯に響く。
「ところでまだ名前を言ってませんでしたね。俺は平塚守といいます。」
守は礼儀正しく自己紹介する。ついでに軽く頭を下げた。
「いい名前ですね。私は『桜井 理恵』といいます。」
「あはっ、いい名前。理恵さんはここに住んでいるんですか?」
理恵は"そうです"と頷き同じ質問を返した。
「守さんは?どこに住んでいるんですか?」
「実は俺、群馬の人間じゃないんです。実家は秋田にあります。」
「秋田!?あんなに遠いところから来たんですか!?」
「ええまあ、昔から群馬が大好きでいつかまた来たいと思ってました。両親が反対したけどどうしてもいても立ってもいられなくなって・・・・・・1人で来ちゃいました。」
驚愕した返答に対し守は理由を軽く説明し苦笑した。
「どうしてここが好きなんですか?きっかけは修学旅行とか?」
「幼い頃、亡くなった祖母が俺をここに連れて来てくれて、それで色んな所を回ったんです。お祭りを見に行ったりお土産に赤べこを買ったのは今でもいい思い出です。自然も秋田に負けず豊かだし食べ物は美味しいし何より住む人々が優しい。こんなにも素晴らしい場所に再び行ける事をずっと夢見てました。そしてそれが今日叶ったわけです・・・・・・正確には昨日かな・・・・・・」
「守さんって本当に面白い人ですね。私もいつか秋田に行ってみたいな。」
守は嬉しそうに晴れやかな態度で言った。
「是非来てください。そしたらきりたんぽ鍋とか稲庭うどんとかご馳走しますよ。」
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