一生分の勇気

16/26
前へ
/26ページ
次へ
「望愛ちゃんは、もう十分苦しんだよ」 「……っ」 「だからもう、苦しまなくていい。君のお母さんも、君が幸せになることを願ってるはずだよ」 母の心は、徐々に病んでいった。 けれどその中でも、日記を書くことをやめなかった。 最後のページの日付は、母が亡くなる前日だった。 今までと何一つ変わらず、私の成長を喜ぶ内容だった。 不思議だ。 瀬名さんの言葉一つで、思考が驚くほどに変わっていく。 「わ、私……本当に、いいんですか……?」 ずっとずっと、心の片隅に母がいた。 それはこの先も、変わることはない。 母のことを、忘れることは決してない。 でもきっと、存在する形は変化していく。 私にとって、母は唯一の理解者だったはずだ。 安らげる存在だったはずだ。 けれど、いつの間にか私の中で、重く暗い過去の象徴に変化してしまっていた。 本当にもう、いいのだろうか。 母と過ごした日々を、幸せだったと言っても許されるのだろうか。 「私……幸せになってもいいですか……?」 自分の気持ちを、これ以上偽ることは限界だった。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

314人が本棚に入れています
本棚に追加