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「あのね、柊ちゃん……」
「後は俺がやっておくから、今日はもう上がっていいよ」
「え……」
「大事な用事があるんだろ?」
大事な用事だなんて、私は一言も柊ちゃんに言っていない。
それなのに、柊ちゃんは全てわかってしまうんだ。
私はきっと一生、柊ちゃんには敵わないと思う。
「早く帰らないと、瀬名くん拗ねちゃうぞ」
「そ、それはないと思うけど……」
「でもきっと、首長くして望愛の帰り待ってるよ」
もう、帰宅しているだろうか。
こんな私を、待ってくれているだろうか。
きっと瀬名さんなら、いつものあの優しい笑顔で私を迎えてくれるはずだ。
「……柊ちゃん、ありがとう。私、先に行くね!」
急いで着替えを済ませ、バッグを手に取りお店を出た。
するとお店の目の前には、一台の車が停められていた。
何度も見たことのあるその車の運転席には、今私が会いたくて仕方なかった人がいた。
「……ごめん、待ちきれなくて」
わざわざ車で店の前まで迎えに来てくれた瀬名さんの姿を見て、私はきっと変な顔をしてしまったと思う。
嬉しくて笑みがこぼれそうなのに、涙も溢れてくる。
……笑うか泣くか、迷ってしまう。
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