一生分の勇気

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結局車は家まで戻り、瀬名さんに続いて私も家の中へ入った。 二人きりの空間は、いつものことだ。 それなのに、今日はやけに緊張してしまう。 今朝まで麗奈さんが家にいたことで、二人きりになる機会が久し振りに訪れたからだろうか。 それとも、私が瀬名さんを意識しているからか。 「飲みもの、何飲む?」 「あ……私がやります!」 「いいから、望愛ちゃんは座ってて。何がいい?」 「……じゃあ、紅茶でお願いします」 「了解」 申し訳ないと思いながらも、前にもこんなことがあったなと思い出していた。 瀬名さんはたまにこうして、温かい飲み物を作ってくれる。 自分で作るよりも数倍美味しく感じるし、全身に温かさが染み渡る気がする。 私がここへ引っ越してきたときに瀬名さんが用意してくれたマグカップがテーブルに置かれ、瀬名さんがソファーに座った。 静まり返る室内。 暖房の音だけが、耳に届く。 いつも流れてくるテレビの音がないだけで、緊張感は増していく。 ……ダメだ、緊張している場合じゃない。
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