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紅茶を飲んでいた瀬名さんと、目が合った。
私のことを理解してほしいなんて、期待したらダメなのに。
私の心は、愛されることを願ってしまう。
「な、何から話せばいいのか、ちゃんとまとまってなくて……」
「いいよ、全部話して。最初から最後まで、ちゃんと聞くから」
最初から、最後まで。
私が瀬名さんに話したいことの最初に該当する部分は、まだ母が生きていた頃に遡る。
「……私は、幼い頃から、どうして自分は生まれてきてしまったんだろうって思いながら……生きてきました。……その原因は、……父の、暴力でした」
手を上げない父の姿は、記憶にない。
物心がついた頃から、父は母に暴力をふるっていた。
「毎日、じゃなかったと思います。でも、母はいつも泣きそうな顔で、私に笑ってくれていました。……私は自分が殴られるのが怖くて、母を助けることが出来ませんでした。……ただ、静かにすることしか、出来なかった」
父が家にいない時間だけが、唯一安らげる時間だった。
父が帰ってきた瞬間に、心は恐怖で支配されていた。
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