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どんな顔で瀬名さんはこの話を聞いているのだろう。
気になったけれど、その様子を窺う余裕なんて少しもなかった。
「……でも、私が七歳の頃に、母は亡くなりました。……その後は、父の暴力の対象が私に変わって……父は新しい母を家に連れてきたんですけど、私に居場所はなかったです」
父の再婚相手の女性とは、仲良くなることが出来なかった。
仲良くしたいなんて、思えなかった。
母を失った悲しみから、すぐに立ち直ることは出来なかった。
「父からの暴力は、次第にエスカレートしていきました。……でも、誰にも言えなかった。……多分、もう諦めてたんだと思います」
周りに相談出来る人なんて、一人もいなかった。
でも、もし誰か頼れる人がいたところで、私は自分から助けを求めることが出来ただろうか。
きっとあの頃の私には、出来なかったと思う。
正常な判断なんて、出来るはずがなかった。
私の身体には、父から受けた傷が今でもいくつか残っている。
一生、消えることのない傷。
鏡で自分の姿を見る度に、あの頃の記憶が簡単に再生される。
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