0人が本棚に入れています
本棚に追加
私は、先輩と手をつないだままふわふわと飛び続けます。そのまま高速道路の上を飛んだり、池袋駅前のビックカメラの看板を横目で見たり、カラスの群れを回避したりしながら、最終的に池袋西口公園に降りた段階で、体を戻せました。
体を戻して着地した際に、先輩と一緒につんのめって転んでしまった私。ああ、これ人に見られていたら恥ずかしいなと思いつつ、周囲を見渡します。公園の噴水が都会の喧騒の中で静かに流れており、その周りに結構人がいます。しかし、いたところで特に私達2人のことを気にかけてもいないようです。
「ああ、元に戻れましたね先輩!でも、みんな『あの2人何もない空間から突然出てきたぞ?』って不思議に思わないんですかね?」
「『風に吹かれても』という名曲がある。風に吹かれても、人は自分の帽子が脱げないか気にする程度だ。案外、風そのものは気にしないんだよ。風から突然人になっても、『ああ、ここに人がいたのか。気付かなかった』ぐらいにしか思わない。そういうものなんだ。変わらない日常。まあそれでいいと大体のウインドピープルは思っている。たまに風になるのもいいだろうと開き直っている」
「今日は、すごく不思議な気分でした。たまにと言わずに、ぜひまた、先輩と一緒に風になりたいです!」
どういう風の吹き回しでしょうか。私は、こういうことを積極的に言うタイプではないと思っていたのですが。
先輩の表情は…無表情です。無風。
「うん、また機会があればね。じゃあね」
そう言うと先輩はそそくさと街角を曲がります。あわてて追いかけてみたものの、角を曲がった先には先輩の姿はありませんでした。
夕陽に照らされた池袋の街。帰りを急ぐ人々の群れの中、私はしばらく立ち尽くしていました。
最初のコメントを投稿しよう!