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「先輩、この状態だと人にぶつかっても大丈夫なんですか?」
私はそう聞いたんですが、先輩はまだ私から10メートルぐらい離れています。声聞こえないのかな。そうこうしているうちに、道路を歩いていたサラリーマン風のおじさんにぶつかりそうになります。
あぶない!とも思ってない自分が怖いですね。予想どおり、おじさんの体にぶつかる前に私の体は方向を変えて流れていきます。ああ、人に触れることもできないのか。あれ?もしや地面に落ちても…。
アスファルトの道路に落ちても私は流されていくだけです。なんだこれ、着地もできないなんて!
「地面にいる時は、体を戻すチャンスだ!」
先輩は頑張って空中を泳いで、私の腕をつかんでくれました。ああ、風同士では触れあえるんだ。このおかしな状況の中で先輩が頼りに感じます。
「体を戻すっていう表現なんですね。どうやったら戻るんですか?」
「ウインドピープルによって違うが、僕の場合は頑張って立って踏ん張る。そして止まれ!と強く念じる。そうしないといつまでも飛んでしまう。最高で10時間くらい風になっていて、捜索願を出されたこともある。風になるもなかなかつらいもんだよ」
そう言う先輩の横顔!ああ、神様は一体どういう風の吹き回しなんだろう。先輩の悲しげな表情すら美しいものに見えます。
「分かりました。私も踏ん張ります!」
もうちょっと先輩と一緒に風になっていたい気持ちもあったのですが、私は戻る決意をしました。頑張って立って、踏ん張り、止まれと念じる。これが結構難しいんです。体がふわふわ浮いているから、方向を定めることすら難しい。道路の車や自転車にぶつかりそうになると、自動的に体の方向が変わるし。自分の体をこれほどコントロールできないなんて!ウインドピープルの日常は大変だなと思いました。
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