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「私のことは、いいんです。そんなことよりも……瀬名さんとご両親の仲の方が、心配です」
日本でも有数の大企業の社長と、その息子。
一般家庭の親子のようには、なれないのかもしれない。
だとしても、瀬名さんが両親に向ける敵意は明らかなものだった。
親子のはずなのに、まるで他人同士のように見えてしまった。
「もし私で良ければ……何でも聞くので、何でも話して下さい。……私はいつも瀬名さんの優しさに救われているので、私も瀬名さんの助けになりたいんです」
何か困っていることがあれば、力になりたい。
私に出来ることなんて、きっと限られているだろうけれど、それでも何もせずに彼が悔やむ姿なんて見ていられなかった。
すると、瀬名さんが私の手を握り、指を絡めた。
「じゃあ、今日だけは望愛に甘えさせてもらおうかな。……ホテルに戻ったら、少し話聞いてもらってもいい?」
「も、もちろんです!」
瀬名さんは車通りの多い道に出たところで、タクシーを拾った。
タクシーの中で、瀬名さんとは少しだけ会話をしたけれど、いつもの自信に満ち溢れた瀬名さんとはやっぱり違うように見えた。
こんなに弱っている瀬名さんを見たのは……初めてかもしれない。
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