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今夜宿泊するホテルに到着し、瀬名さんと私はすぐに部屋へと移動した。
一泊いくらするのか見当もつかないくらいの広い部屋で、どうすればいいのかわからず立ちつくしてしまう。
「適当に、座って」
「は、はい」
瀬名さんの実家にいたときとは、違う緊張感が襲いかかる。
なぜだろう。
話を聞くだけなのに、私の胸はざわざわと騒いでいた。
「まるで他人みたいだって、思わなかった?」
「え……」
「うちの親子関係は、ちょっと特殊なんだよ。僕はきっと、他の家庭よりも厳しく両親に育てられてきたと思う。物心がついた頃から、大人になったら会社を継ぐように言われてきたからね」
瀬名さんは私と向かい合わせに座り、自分の育った環境について語り始めた。
「僕や麗奈の意見なんて、素直に聞き入れてもらえた試しがない。年齢を重ねるにつれて、僕も反抗することを覚えるようになったけど……気付いたときには、あの人たちに失望している自分がいたんだ」
気持ちは、徐々に変化していく。
心はゆっくりと、侵食されていく。
気付いたときには、もう何をしても遅い。
取り返しのつかないことだって、きっとある。
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