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「それなら……どうして会社を継ぐと決めたんですか……?」
もしもその人間性を嫌いになったとしたら、その人が作り上げた会社を継ごうだなんて思えないはずだ。
私が知っている瀬名さんは、自分の気持ちに嘘をつけない人だから。
「……あれは、高校生のときだったかな。初めて、父が作った会社に出向いたんだ。働く父の姿を間近で見たときに受けた衝撃は、今でも覚えてるよ。……うまく言えないけど、多分僕はあの瞬間に、この会社を継ぐと決めたんだ」
きっと誰より尊敬しているはずなのに、なぜうまくいかないのだろう。
互いに歩み寄れば、分かり合えるはずなのに。
「矛盾、してます……」
「そうだね」
瀬名さんは、渇いた笑みを浮かべた。
「会社の社長としては、尊敬出来る人だよ。ただ、父親となれば話は別だ。僕はあの人を、父親として尊敬したことは一度もない。……そもそも向こうは、僕のことを息子として見たことなんてないんじゃないかな」
「え……」
「自分の後継者としてしか、見ていないと思うよ。それは父だけじゃなく、母もそうだと思うけどね」
私が思っていたよりもずっと、瀬名さんと両親の間の溝は、根深いものなのかもしれない。
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