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この家には、楽しい思い出しか溢れていない。
瀬名さんのそばにいられる時間は、毎分毎秒幸せを感じていた。
自分の寝室へ入り、下着と服を着替えて簡単に荷物をまとめた。
「あっという間だったな……」
寝室、リビング、キッチン、ベランダ、トイレ、浴室。
全てのスペースに足を踏み入れ、別れを惜しんだ。
瀬名さんから離れる道しか選べない自分が悔しい。
もっとずっと、一緒にいたかった。
この命が尽きる瞬間まで彼のそばにいると、一度は心に誓った。
でも、父が目の前に現れた今、真っ先に私の頭に浮かんだ行動は、瀬名さんから離れることだった。
彼を心から愛しているからこそ、離れるべきだと感じた。
私はリビングにあるチェストの引き出しに入っていたメモ帳を取り出し、一枚のメモ紙にペンを走らせた。
「……」
伝えたいことなら、沢山ある。
私は瀬名さんから、恋をすることの尊さを教えてもらった。
これは私にとって、最初で最後の恋だ。
一生私は瀬名さんを想い続ける。
「……ありがとうございました」
最後に私は、自分以外誰もいない部屋に向かって一礼した。
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