恋に溺れる感覚

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「ど、どうして私が葛城の看病をしなくちゃいけないのよ」 「別に深い意味はないよ。動揺し過ぎだろ」 麗奈が葛城に想いを寄せていることは、ずいぶん前から気付いていた。 葛城本人が気付いているのかは、わからない。 でも僕の予想では、麗奈の恋が成就することはないだろう。 葛城が麗奈に手を出すとは思えない。 そもそも、葛城のプライベートは謎に包まれている。 今まで一度も恋人の話を聞いたことはないが、きっと独身を貫いていることには何か意味があるはずだ。 「別に動揺なんてしてないわよ。それよりお兄ちゃん、札幌の生活はどうなの?楽しい?」 「あぁ、楽しいよ。最高だね。出来ればずっと向こうにいたいぐらい」 僕が札幌にいられる年数は決まっている。 ずっと今と同じような生活が送れるわけではない。 でも僕は彼女と出会ってから、今まで感じることのなかった幸せに触れられる喜びを日に日に感じていた。 いつも僕は、変化を求めて生きてきた。 けれど、出来ることならずっとこのままでいたい。 ずっとこのまま、彼女のそばにいて、彼女との恋に溺れていたい。 そう本気で願っていた。
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