恋に溺れる感覚

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父の会社を継ぎたいという気持ちは若い頃から抱き続けてきた。 好きな仕事だけをして継ぐことが出来るのなら、どれだけ気持ちが楽だろうと思う。 自分の苦手な分野にこそ、新しい道を切り開くチャンスがある。 そう思えるようになったのは、本当に最近のことだ。 十月下旬の土曜日。 この日も例のごとく、僕は苦手なパーティーに半ば強制的に出席していた。 パーティーの主催者でもある会社の社長は、自分の娘と僕を結婚させようと様々な手を使って娘をアピールする。 僕は一ミリも興味のない女性からの上目遣いを冷静に受け流し、まるで何かのマニュアルに記載されているようなお世辞を並べ、その場をやり過ごす。 どのパーティーに出席しても、必ず同じようなやり取りに遭遇するため、正直かなり辟易していた。 最後までいる必要はない。 僕は仕事が入ったフリをして会場から抜け出し、タクシーを拾い彼女が働く店を目指した。 一度会ってしまえば、何度でも会いたくなる。 「すみません。少し急いでもらってもいいですか」 時計を見ると、ラストオーダーの時間に間に合うかどうか微妙なラインだ。 最悪なことに大雨の影響なのか事故があり、夜だというのに車は渋滞に巻き込まれてしまった。
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