恋に溺れる感覚

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仕方なくタクシーを途中で降り、鞄に入れていた折り畳みの傘を使い雨を避けながら店までの道を走った。 到着すると、店の扉にはまだオープンの札がかかっていた。 間に合ったと思ったけれど、実際に扉を開けると客は誰もいなく、厨房にいるはずの彼女が店内で掃除をしている姿が目に映った。 「あれ、もしかして今日はもう終わりかな」 腕時計で時間を確認すると、既にラストオーダーの時間を過ぎてしまっていることに気が付いた。 あぁ、今日も彼女の料理を食べ損ねてしまった。 「大丈夫!ギリギリ間に合ったよ。瀬名くん、カウンターでもいい?」 「良かった。ありがとうございます」 きっと僕が落胆する様子を見て同情してくれたのだろう。 柊さんは気を利かせて僕を招き入れてくれた。 「望愛、厨房入って」 「あ……はい」 彼女は一瞬僕と目を合わせ、ぎこちなく会釈をした後、逃げるように厨房へ入って行った。 僕はそんな小さな仕草でさえ、可愛いと思ってしまう。 「瀬名くん、オーダーは何にする?さすがに時間がかかるものは出せないけど」 「そうですね……じゃあ、お任せで」 この日彼女が僕に出してくれた料理は、煮込みハンバーグだった。
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