恋に溺れる感覚

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柊さんに結婚の話を振ったことで、店内に出てくることはないだろうと思っていた彼女が出てきてくれた。 子供が出来たことがキッカケになり、夏さんと結婚することを決めた柊さんに対し、彼女は両目に涙を溜めながら祝福した。 おめでとうと喜ぶ中に、少しの寂しさが混じっていることに僕はなぜか気付いてしまった。 彼女と柊さんを繋ぐ絆は、どこにでもあるようなものではない。 少なくとも、今まで僕が見てきたものの中では、最も強く壊れることはない絆だと感じていた。 その絆の裏には、きっと他人には簡単に触れられないような何かがあるのだろう。 その何かが何なのかは、このときの僕にはまだわかっていなかった。 子供が生まれたら夏さんも交えて四人で暮らそうと、柊さんは彼女に言った。 すると、彼女は何かを決意したかのように、一人暮らしをしてみたいと返した。 その瞬間、僕はこの絶好の機会を逃すわけにはいかないと直感で感じた。 彼女が一人暮らしをすれば、今より僕は彼女に近付きやすくなる。 でもそれよりも、もっと距離を縮める手段を思いついてしまった。 彼女の突然の申し出に対し、柊さんは当然のように猛反発した。
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