恋に溺れる感覚

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彼女が人には言えない苦しみを抱えているのではと、最初に感じたのは同居を始めてから三日目のことだった。 その日僕は、彼女よりも先に帰宅していた。 僕より一時間ほど後に帰宅した彼女は、少し疲れた様子を見せながらも僕の話に付き合ってくれた。 「何か飲み物作りますね」 「あぁ、いいよ。飲み物ぐらい自分でやるから」 「いえ、せ、瀬名さんはリビングでゆっくりしていて下さい」 ぎこちなく僕の名前を呼ぶ彼女が愛しくて、僕はこのときずっとにやけていたと思う。 ケトルでお湯を沸かす音を聞きながら、結局リビングで黙っていられずにキッチンに立つ彼女の方へ近付いた。 すると彼女は胸を両手で抑え、息苦しそうに深い呼吸を繰り返していた。 「……」 すぐに手を伸ばし、声をかけようと思った。 でも僕は、声をかけられなかった。 彼女が必死に一人で息苦しさを克服しようともがく姿を見て、少なからず衝撃を受けたからだ。 同居をする前、僕は柊さんから、彼女の健康状態について説明を受けていた。 彼女の健康状態は良好で、今までも大きな病気はしたことがないらしい。
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