恋に溺れる感覚

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だとしたら、この苦しむ姿は何か精神的なものから生じているのだろうか。 でも当然彼女が僕に対して弱音を吐いてくれるはずはなく、何事もなかったかのように温かいお茶を運んできてくれた。 彼女はどんな苦しみを抱えて生きているのだろう。 葛城の言うように、身辺調査をすれば彼女のことについて詳しく知ることが出来る。 例えば人には言えないような過去があるとしても、調べるのは容易いことだ。 でも僕は、彼女に関わることは彼女の口から聞いて知りたかった。 どんな些細なことでも構わない。 どれだけ時間がかかったとしても、僕の中でそれだけは譲れなかった。 そんなときだった。 僕はクリスマスイブに、彼女と二人で出掛ける機会に恵まれた。 かなり強引な誘い方だったけれど、本当は断られることも覚悟していた。 でも、彼女は僕の誘いを受けてくれた。 それだけで僕は相当舞い上がっていたと思う。 どこへ行けば、彼女の笑顔が見られるか。 珍しく北海道のガイドブックを購入し、まるで何泊も旅行するかのように何度もプランを練り直した。 今までの僕は、女性と出掛けることに対してこんなに執着したことがない。 誰かと一緒にイブを過ごしたいと思ったことさえない。
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