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「あぁ、それから。望愛のこと、気安く名前で呼ばないでくれないかな。仕事の先輩のことは、ちゃんと名字で呼ぶように。社会に出る前に、今からそういう常識は身につけておいた方がいいよ」
正直、今は常識なんてどうでもいい。
それでも敢えてそんなことを忠告したのは、ただの子供じみた嫉妬を抑えられなかったからだ。
「行こうか」
僕は安藤の返事を聞く気は一切なかった。
彼を一人残し、望愛の手を握りしめ教室を出た。
「まだどこか見たい所ある?」
「あ……いえ、もう大丈夫です……」
「じゃあ、外でタクシーを拾ってすぐに帰ろう」
僕たちは人混みをすり抜け、足早に学校を後にした。
手を繋いだままの状態でタクシーに乗り込み、乗っている間も僕はその小さな手を離さなかった。
手を離してしまったら、彼女が僕に心を開くことを拒んでしまうような気がしたから。
もう二度と、一人で塞ぎ込んでほしくはない。
何があっても、僕にだけは素直な気持ちを吐き出してほしい。
望愛を一人にさせたくない。
これまで望愛を一人にしないように配慮し続けてきた柊さんの気持ちが、痛いほど僕にも理解出来た。
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