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家に到着した頃には、血の気が引き青白かった望愛の顔色はだいぶ元に戻っていた。
ついさっきまで意識を失いそうになっていたのに、今はもう仕事を抜け出してきた僕のことを心配している。
彼女はいつだって、周囲への気配りを忘れない。
苦しいときくらい、自分自身の心配だけしていればいいのに。
一体、安藤に何をされたのか。
二人の間に何が起きたのか。
僕は問い詰めずにはいられなかった。
「何があったの?」
僕が聞くと、彼女は俯き黙り込んでしまった。
僕には言いづらい何かがあったのだろう。
でも、逃がすことは出来ない。
「望愛」
僕が彼女の名前を呼ぶと、彼女は伏せていた顔をゆっくりと上げ、ようやく口を開いてくれた。
「す、好きになったっぽいって……言われました……」
僕の予想通りの展開だった。
きっと彼女は、安藤に好きだと言われひどく驚いただろう。
自分に好意を持っているだなんて、少しも気付いていなかったに違いない。
彼女は常に自分に対して自信がない。
それはきっと、幼い頃に父親から愛情を与えられなかった過去が関係しているのだろうと思う。
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