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すぐに彼女は電話に出てくれると思っていた。
でもそんな僕の予想を裏切り、彼女が電話に出ることはなかった。
何度かけても、規則的な呼び出し音が聞こえるだけ。
もう、嫌な予感しかしなかった。
「葛城。悪い、今日はこのまま直帰するから」
「何を仰っているんですか。午後からも、やらなければならない仕事は山積みですよ」
「山積みの仕事は全て明日に回してくれ」
僕は葛城の制止を振り切り、急いで会社を出てタクシーを拾った。
向かった場所はもちろん、今望愛がいるはずの専門学校だ。
行き先は予め望愛から聞いていた。
僕の嫌な予感は、外れているかもしれない。
電話はバッグの中に入れているから、たまたま気付いていないだけかもしれない。
むしろ、その可能性の方がきっと高い。
それでも、大切にすればするほど、最悪のシナリオを考えてしまう。
もしも今、電話には出られない状況に陥っていたら。
もしも今、あの男に接近されていたら。
もしも今、僕に助けを求めていたら。
何もなければ、それでいい。
彼女が楽しそうに笑ってくれているのだとしたら、それでいい。
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