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「確かに、彼女にとっては酷でしょうね。彼女は今の職を失いたくないでしょうし、家族とも離れることになりますから」
葛城は、望愛の過去について深くは知らない。
それでも、勘の鋭い葛城ならとっくに気付いているのだろう。
望愛が、他人に簡単には言えないような、深い悲しみを背負って生きてきたことに。
「それでも、副社長は彼女を誰より幸せにする自信があるのですか?」
「当たり前だろ。自信も覚悟もある」
「でしたら、最初から迷う必要なんてないでしょう」
「……」
顔色一つ変えない葛城の言葉で、僕は我に返った。
確かにそうだ。
僕には、望愛を幸せにする自信がある。
住み慣れた札幌を離れて東京に来ても、絶対に後悔させない自信がある。
もしも望愛が、柊さんと夏さんから離れたことで不安になったときは、僕が誰より近くで支えればいい。
僕は、何を迷っていたのだろう。
「副社長が弱気になるとは、珍しいですね」
「別に弱気になったわけでは……」
「まぁ、最終的に決断するのは彼女自身なので、断られる可能性も大いにありますけどね」
「……断られてもいいよ。僕は諦めの悪い男だからね」
「それは知っています」
もし東京に移り住むことを断られても、何度だってチャンスは訪れる。
四年もの間、彼女を想い続けてきた。
手に入れたいと願ってきた。
今さら、諦めるなんて出来るはずがないんだ。
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