誰より大切な君が生まれた日

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僕の予想に反し、父と母は望愛との結婚前提の交際を認めてくれた。 それは僕にとって、大きな誤算だったが、大きな喜びでもあった。 「言っておくけど、彼女の過去に同情して認めたわけじゃないからな。そこだけは勘違いしないでくれ」 もちろん望愛も、同情が欲しくて自分の過去を打ち明けたわけではない。 むしろ同情なんて、してほしくないだろう。 「あなた、そろそろ時間よ」 「あぁ、もう出るよ。じゃあ湊、望愛さんにまた会おうと伝えておいてくれ」 「……父さん、ありがとう」 僕は、両親に敬語を使うことをやめることにした。 ここは会社ではない。 父は社長だけれど、この家では父親だ。 そんな当たり前のことを、今になってようやく気付かされた。 そしてあんなに疎んでいた父に対して、自然と礼の言葉を述べている自分に僕は驚きを隠せなかった。 「それからわかっているだろうけど、敢えて言っておく。お前が札幌にいられる期間を延長するつもりはない。来年の四月からは、約束通り本社に戻ってきてもらうぞ」 「……わかってるよ」 二年で成果を上げ、東京に戻る。 その約束は、やはり残ったままだった。
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