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毎年三月は特に多忙な時期でもある。
結局その日も、日付が変わる直前の帰宅になってしまった。
「お、お帰りなさい!お仕事、お疲れ様でした」
「……ただいま」
望愛も仕事で疲れているはずなのに、一切疲れは見せずにいつも玄関で僕を出迎えてくれる。
僕の帰りを待たずに、先にベッドに入っていることはない。
先に寝ていてもいいよ、と言ってあげるべきなのだと思うけれど、言いたくない自分がいる。
望愛がこうやって笑顔で出迎えてくれることで、一日の疲れなど簡単に吹き飛んでしまうのだ。
家に帰るとホッとする。
それは間違いなく、望愛が家にいるからだ。
「疲れてますよね。お風呂沸かしてあるので、すぐ入れます」
「ありがとう」
寝室に向かい、コートを脱いで着替えを取りに行きリビングに出ると、望愛は乾燥を終えた洗濯物を畳んでいた。
「手伝うよ」
「え、だ、大丈夫です!これぐらい、全部一人でやれますから」
普段から望愛は、あまり僕を頼ってくれることがない。
ワガママも言わない。
家の中の大体のことは、何でもこなせてしまう。
きっと、育ってきた環境が彼女をそうさせたのだろうと思う。
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