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来年の三月には、望愛との同居生活は強制的に終わりを迎えることになる。
僕は東京へ戻り、望愛は札幌で仕事を続ける。
遠距離になっても、交際を継続することは出来るだろう。
でも僕は、望愛と離れたくなかった。
毎日、望愛の笑顔に癒されている。
望愛の作る食事が、僕の源になっている。
正直、望愛がそばにいない生活なんて、僕には考えられないことだった。
でも、東京へ戻る僕について来てほしいと言えば、きっと彼女を困らせてしまうことになるだろう。
望愛にとって、柊さんが作った店がどれだけ大切な場所なのか、僕にもわかっている。
そして、柊さんと夏さんが、望愛にとってどれだけ大切な存在なのかということも。
わかっているからこそ、僕は悩んだ。
軽はずみに口に出来るようなことではなかった。
五月に僕の両親に会ってから、月日は経ち、六月には柊さんと夏さんの間に待望の子供が生まれた。
その間も、僕は望愛にどう伝えるべきか、密かに悩み続けていた。
「最近、楠さんとの間に何か問題でも起きたのですか?」
僕は望愛の前では、悩んでいる自分を見せないようにしていた。
だからか、仕事中にいつも僕のそばにいる葛城には気付かれてしまったのかもしれない。
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