339人が本棚に入れています
本棚に追加
「別に問題は起きてないよ」
「では、他にどんな悩みが?」
支社長室のデスクで会議の資料に目を通していた僕は、目の前に背筋を伸ばして立つ葛城に視線を移した。
「葛城には、人の心を読み取る機能が装備されているのか?」
「ただ副社長がわかりやすいだけです。気付かれたくないのなら、気付かれないようにして下さい」
僕はあまり自分の悩みを他人に相談するようなことはしない。
結局は自分が決断するしかないとわかっているからだ。
でも今回ばかりは、他人に意見を求めたい気持ちになった。
「……僕が来年の四月から東京に戻ることは知ってるだろ?」
「えぇ。私も社長から、来年の四月に東京へ戻るよう言われております」
葛城は僕の専属の秘書だ。
僕が異動になれば、当然のように葛城も異動になる。
僕は東京に戻っても、今までと同じように仕事を続けられる。
葛城がいて、社長である父がいて、慣れ親しんだ本社には多くの部下がいる。
でも望愛にとっては違う。
全ての環境が変わってしまうのだ。
「……僕について来てほしいと言うのは、望愛にはあまりにも酷なことなんじゃないかと思って」
最初のコメントを投稿しよう!